東京高等裁判所 昭和26年(ナ)45号 判決
原告 浅尾国一 外七名
被告 千葉県選挙管理委員会
一、主 文
本訴を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は訴状における請求の趣旨として、昭和二十六年四月二十三日行なわれた千葉市議会議員の選挙につき、被告が同年八月二十七日なした訴願棄却の裁決を取り消す。右の選挙を無効とする、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、その請求原因として次のとおり主張した。即ち、
一 昭和二十六年四月二十三日公職選挙法に基き千葉市議会議員の選挙が行われ、原告国吉庸太郎は選挙人、その他の原告らはいづれも候補者であつた。
二 ところが、右選挙で当選した石橋光は、自ら又はその選挙運動者を通じて、その頃選挙人のある者から投票所入場券と印鑑とを預かつた上、これらを使用して自分勝手に不在者投票用紙、封筒の交付申請依頼書を作成し、かつ、自分が医師であるところから、医師として老衰その他適宜の事由を記載し、選挙人自ら投票所に行つて投票することができない見込である旨の証明書を作成し、これを千葉市選挙管理委員会に提出して、不在者投票用紙とその封筒の交付を受け、その投票用紙に勝手に候補者として石橋光の氏名を記載し、真実選挙人が病気のため著しく歩行が困難で正規の手続によつて不在者投票をなすように装い、同市選挙管理委員会に提出し、これによつて、少なくとも二十五票の不正の不在者投票を獲得した。即ち、公職選挙法第四十九条同法施行令第五十条第五十二条第五十三条第五十八条に違反して行なわれた選挙であることが明らかである。
三 右選挙における下位当選者とこれに続く落選者の決定については、わずかの得票の差によつて定められたのであるから、右二十五票の不正投票は、数多の候補者に対し当落の影響があるのであつて、選挙の結果に異動を及ぼし、当選の効力についてはもちろん、選挙の効力に関し重大なものがあるのである。
四 そこで、原告らは昭和二十六年五月七日選挙の自由と公正とを維持するため、公職選挙法第二百二条により千葉市選挙管理委員会に対し、右第二、三項に記載したことと同趣旨の理由を以つて異議の申立をなし、右の選挙を無効とする決定を求めたところ、同月十八日附を以つて「本件については、目下司直において取調中であり、現段階においては、不正があつたと断定することはできない」との理由のもとに、同管理委員長名義で「この異議申立は棄却する」との決定がなされた。
五 原告等は、右の決定には承服し得ないので、公職選挙法第二百二条第二項に基き昭和二十六年六月七日被告に対し、右異議申立の理由に加え、さらに右決定の形式不備及び理由不備の理由を主張して訴願し、異議申立棄却の決定を廃棄した上本件選挙を無効とする旨の裁決を求めた。ところが、同年八月二十七日附で「結局右第二、三項の事実は、仮りにその事実ありとするも、公職選挙法第二百五条の選挙の規定に違反したものにあらず、又、選挙の結果に異動を及ぼすおそれなし」との見解のもとに、委員長名義で「この訴願は棄却する」との裁決があり、その裁決書は同月三十日原告らに送達された。
六 しかし、原告らは被告と法律の解釈を異にし、右第二、三項の事実は公職選挙法第二百五条に当るものと信ずるから、請求の趣旨にあるような判決を求めるため同法第二百三条に従い本訴に及んだ次第である。
原告代理人は右のとおり、訴状に基き請求の趣旨及び原因を陳述したのであるが、その後の口頭弁論において、これを次のように訂正陳述した。即ち、請求の趣旨として、本件の選挙を無効とする、との訴状中の一項を撤回し、これに代えて「昭和二十六年四月二十三日公職選挙法に基き行なわれた千葉市議会議員選挙における内山昇、和田重雄、松井芳蔵、海保不二男、富岡松五郎、秋元英一郎、油布幸喜、清古初四郎の当選はこれを無効とする」との判決を求め、その請求原因として次の事項を附加した。
一 前記訴状の請求原因第三項において主張したように、下位当選者とこれに続く落選者の決定については、わずかの得票の差を以つて定められた。即ち、当選者内山昇は五七二票、和田重雄は五七二票、松井芳蔵は五六八票、海保不二男は五六五票、富岡松五郎は五五九票、秋元英一郎は五五五票、油布幸喜は五五五票、清古初四郎は五五四票、次点者(最高位落選者)山本政次は五五三票である。
二 原告らは、実質上当選無効の異議や訴願をしたのに、千葉市選挙管理委員会及び千葉県選挙管理委員会はその解釈を誤り、選挙の効力に関する決定や裁決をしたものである。また、訴状においても実質上当選無効を主張しながら、これを誤解し選挙無効を主張してきたのであるから、これを訂正し当選無効を主張する。即ち、訴状の請求原因第三項において、二十五票の不正投票は選挙の効力に関して重大なものがあると述べているのは、いわばよけいな事情を述べたのであつて、当選の効力について重大なものがあるという意味である。そして、右の訂正は請求の基礎には影響がないから、許さるべきものである。(立証省略)
被告訴訟代理人は訴状中の請求の趣旨に対し、請求を棄却する、との判決を求め、事実上の答弁として、訴状の請求原因第一項の事実は認める。同第二、三項は否認する。同第四項中異議申立及びその棄却の決定のあつたことは認めるが、その余の事実は否認する。同第五項中訴願及びその棄却の裁決があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。原告が訴状の請求原因第二項において主張しているような事実が仮りにあつたとしても、それは個々の投票の有効、無効の問題であるから、選挙無効の理由とはなり得ないものである。
なお、原告が選挙の効力に関する訴訟を当選の効力に関する訴訟に変更したのは、請求の基礎を変更したものであるから、この変更は許されないものである。千葉市選挙管理委員会が原告の異議申立の趣旨を誤つて決定したということ及び千葉県選挙管理委員会が原告の訴願の趣旨を誤つて裁決したということは、いずれも否認すると述べた。(立証省略)
三、理 由
原告らは最初昭和二十六年四月二十三日行なわれた千葉市議会議員の選挙について、被告が同年八月二十七日なした訴願棄却の裁決を取り消し、右の選挙を無効とする、との判決を求めたところ、その後の口頭弁論において、右の選挙を無効とする、との申立を撤回し、これに代えて、右選挙における内山昇外七名の当選を無効とする、との申立に変更したことは、事実摘示に記載してあるとおりである。従つて、当初は選挙の効力に関する訴訟の申立であつたものを、後になつて当選の効力に関する訴訟の申立に変更したものであつて、請求の趣旨に変更を生じ、この点において、原告が訴の変更をしたことは明らかである。しかし、その理由として主張している事実関係をみると、前後全く同一のことがらであつて、即ち、事実摘示中の請求原因第二、三項(申立の変更前のもの)にあるとおり、右選挙における当選者石橋光は公職選挙法の規定に違反して不正に不在者投票用紙及びその封筒の交付を受け、右投票用紙に候補者として石橋光の氏名を記載し、これを千葉市選挙管理委員会に提出し、少なくとも二十五票の不正の不在者投票を獲得した、そして、右選挙においては下位当選者とこれに続く落選者との間の得票数の差は僅少であるから、右二十五票の不正投票は数多の候補者の当落に影響があるので、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるし、また、このことは同時に当選の効力にも影響すると主張するのである。このように、選挙訴訟の申立を当選訴訟の申立に変更しても、その請求の原因として主張する事実関係が全く同一であれば、請求の基礎に変更がないと認むべきことはもちろんであつて、原告の訴の変更は許されるべきものである。これに反する被告の主張は全く理由のないことである。
原告は右のとおり、申立を変更し、内山昇外七名の当選を無効とする旨の判決を求めているのであるが、地方公共団体の議会の議員の選挙において、当選の効力に関する訴訟を提起するには、当選の効力に関する異議の申立に対する決定及び訴願に対する裁決を受けた後でなければならないことは、公職選挙法第二百七条第二百三条第二項の規定によつて明らかである。しかるに、本件においては、原告らが当選の効力に関する異議の申立に対する決定及び訴願に対する裁決を受けたことについてはいずれもこれを認めうるような証拠がない。
もつとも、原告らは、千葉市選挙管理委員会に対して当選の効力に関する異議の申立をしたのに、同委員会はこれを誤り選挙の効力について決定をなし、また、原告らは被告に対して同じく当選の効力に関する訴願をしたのに、被告はこれを誤り選挙の効力について裁決をしたものであると主張している。しかし、原告らが右の異議申立書及び訴願書にあるといつている甲第五号証の一、二によると、原告らの前記異議及び訴願は選挙の効力に関するものであつて、当選の効力に関する異議及び訴願ではなかつたこと、疑をいれる余地がない。
従つて、本件は起訴要件を欠いており、不適法な訴であるから却下を免れないのである。よつて、訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九条第九十五条の各規定を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 藤江忠二郎 薄根正男 浅沼武)